試合が終わった帰り道。
ぞろぞろとバスケ部の部員で公道を並んで歩く。
市内から郊外に向かって歩いているから、人がどんどん減っていて。
まあそもそも、これだけの体格の男が並んで歩いているのだ。人が多くても邪魔なだけだが。

それよりも、先程から背中に感じる申し訳ない程度の視線。
さんだった。
ちらりと気付かれないように顧みれば、嘆息したあと視線を地面に落として。
うちが勝ったんだから、もっと喜べばいいのに。変なの。

終わったら直帰、だったら良かったのに再び学校の体育館に部員が集められて雅子ちんの話が始まる。
あくびを零したら竹刀で殴られそうになったので交わしておいた。

「あ、」
「どうしたの、アツシ」
「体操着忘れた。洗うやつ」
「教室に?」
「ううん。ロッカーに。金曜入れた後昨日丸一日忘れてて。んで、月曜日体育あるし」
「取ってきた方がいいんじゃないか?」
「予備もあるけど…うん、一応取ってくるし」

先に帰ってて、と伝えてオレは元来た道を引き返す。
明かりの消えている体育館を通り過ぎて部室の方に行くと、そこは電気が付いていた。
誰かいるのだろうか。

扉を開けて、そこにいた人物に口を引き結ぶ。
相手もオレが入ってきたことに驚いているのか、動きを止めて目を見開いて。

「あ…っと、お疲れ、さま」
「………うん」

言葉を返すのが億劫だが、無視することに意味はないのでとりあえず返事をする。
彼女の顔を直視できなくて視線を彷徨わせながら、ああどうしよう、なんて考えた。
正直、今は会いたくなかったし。

「えと、私これ洗うから…じゃあ、」
「…………」

向こうもオレの態度に何となく空気を察したのか、こちらの顔を見ようとしなかった。
手に持つドリンクボトルの入った籠を持ち上げて外に出ようと扉の方へ足を進める。
扉の手前にいるオレの目の前まで来たところで、そこを塞ぐようにずれると、彼女が困惑した顔をする。

「………むっくん…?」

不安げな表情、揺れる瞳。
瞳の奥にちらつく恐怖。
それにまたオレの中で何かが軋む音がする。
食いしばった歯か、それとも何か別のものか。
ねえ何でそんな顔してんだし。

「あ、の…」
「何でだろ」
「え、」

言葉を繋ぐのが苦しい。
胸をかきむしりたくなる。
足を踏み出すと彼女が一歩下がった。
その態度にイライラする。
何で"よける"んだし。何で"さける"んだし。
今度はさんを脇の壁に追い込むように手を壁に回した。
こうして囲ってしまうと彼女が物凄く小さく見える。
そう言えば身長差、50センチくらいあるんだっけ。
それって言葉を変えれば簡単にヒネリつぶせちゃうよね。

「別に何ともなかったのに」
「む、っくん…?」

その怯えた目が、オレをどんなに追い詰めているのか、さんは分かってねーし。
背を落として身体を屈めると彼女がますます離れるように壁に張り付いた。
ねえ、何でいつもそうなの。
自分の間合いには簡単に人を入れるくせに。
それがどれだけ無責任な態度なのか、全然認識してねーし。

悔しい。
オレが彼女の間合いに入り込んだつもりだったのに。
違ったんだ。オレが入り込んだんじゃない。
オレの間合いに入り込んでいたのは。
彼女のほうだ。

「すげームカつく」

顔を近づけてその瞳を覗き込みながら告げると、彼女の瞳孔がきゅっと縮まる。
そう言えばこういう目、試合の時にも見たことがある。
ああ、絶望を感じた時の目だ。

言葉にすると一瞬だけすっきりするものの、胸は石が詰まったように重たく苦しくなった。
これって、傷つけたことになんのかな。冷えていく指先を握りしめながら考える。
彼女が何かを言いたげに口をもたつかせた後、オレの名前を呼ぼうと声を出した。

だけど今は何も聞きたくない。

鞄を肩に掛け直してさんに背を向ける。
最後に見たさんの表情は髪に隠れて見えなかったけれど。
扉を開けて外へ出る。
乱暴に閉めた扉が大きな音を立てる。

ああ、体操着取れなかったし。

今更中に戻るつもりもないので、そのまま歩き出す。
握り締めた手をそのままポケットへ捻じ込むが、拳に込めた力は抜けてくれなかった。

試合の時は絶望の後に相手を負かしてすっきりするのに。
すっきりどころかどんどん苦しくなっていく。
ムカつく、ムカつく、ムカつく。
オレの苛立ちの原因はどう考えてもさんなのに。
だから彼女を追い立てたのに。
オレの気持ちはちっとも晴れない。ヒネリつぶして絶望を味あわせた後のようにならない。
上手くコントロール出来ない自分の気持ちが分からない。

結局その日。
オレはまともにご飯も食べれず、お菓子も食べずに寝た。


【あとがき】
ここでは何というか。怯えているような彼女がっていうのがポイントと言うか。
友達であれ誰であれ、目の前で自分を拒絶するように怯えられたら傷つきますよね。
この場合はむっくんがどう考えても悪いんですけど(苦笑)
そう言った状態にさせてしまった自分と、そういう態度をしてしまった自分に苛立ってる様子、ですかね。
うーん、むっくんの気持ちを表すって難しい!

[2013/11/14]