部活の休憩時間。
私は今日の部活内容をメモしようと部室のほうにノートを取りに来ていた。
それぞれ今日行ってきたメニューだとか、荒木監督が助言したこととか。
そういうものをまとめてあったりする。
私は彼らにアドバイスが出来る立場じゃないから、何か彼らの役に立つことをしなければと思って始めた。

「あれ、いないと思ったらここに居た」
「むっくん」

その時、部室の方に顔を出したのは紫原くんで。
彼をむっくんと呼ぶようになってどれくらい経っただろう。
まだちょっと慣れないけど、彼との距離が少し縮まったような気がする。

「お菓子取りに来たの?」
「うん」

バタリと扉を閉めて、紫原くんは自分のロッカーを覗き込む。
その間私はノートとペンケースを用意して。

「あれ、」

がさごそとロッカーを漁っていた彼が疑問を持った声を上げた。
自分のロッカーを閉めて彼を見れば、少し眉を寄せて今度は鞄の中を漁り始めた。

「どうしたの?」
「お菓子が…ないし」
「食べ尽しちゃったってこと?」
「た、ぶん」

分かりやすい、あからさまにテンションが落ちていく紫原くん。
いつもたくさんお菓子を持っている彼のことだから、某ネコ型ロボットのようにいつでも何処でも出てくるものだと思っていたが。
さすがの彼にも際限と言うものがあったようだ。

「あ、教室には?」
「今日のお昼休みで食べ尽した」
「机の中にもロッカーにもないの?」
「うん。机のやつはこっち来る前に詰めてきたし」
「そっか…。あ、」

紫原くんにとってそれは死活問題な、はず。
気が付けばいつでも何かを口に含んでいるから。
かく言う私も実はかなりの甘党で、無類のお菓子好きだったりする。
そんな訳で思い出したことがあって、私はもう一度ロッカーを開けて自分の鞄を漁った。

「はい。これあげる」
「!これ、」
「チョココロネはお昼のデザートに食べようと思って持ってきたんだけど忘れてて。ポッチーは持ってたやつだけど」
「いいの?」
「うん」
「…あんがと」

紫原くんは差し出したそれをそっと受け取る。
目が輝いて見えるのはさっきの落胆があったからだろう。
ポッチーを片手に、チョココロネを袋から出して噛り付く。

「ンまいし」
「良かった」
「これ、ちんと同じ匂いするし」
「へっ?」

同じ匂い?
思わず自分の服を摘まんで匂いを嗅ぐ。
よく分からない。

「初めて会った時、菓子パンの匂いしたし」
「図書館で?」
「ちげーし。教室で」
「…図書館で会う、前?」
「うん」

私紫原くんとお話なんてしたことあったかな。
思い出そうと首を捻るが記憶に、ない。
挨拶とかそういうものだろうか。
それとも実習だろうか。
私がうーんと考えている間に、チョココロネはあっという間に彼の胃袋に収まったようだ。
続いてポッチーの箱を開ける音に顔を上げる。

「まあ覚えてないと思うし」
「ご、ごめん」
「いつも持ってんの?菓子パンとか」

ポッチーの袋を破って一度に三本口に突っ込んでいる。
確かに彼からすればポッチーの一本って不釣り合いかもしれない。
まあ彼が持てばどれもそう見えるが。

「あーうん。たまに?家がパン屋なの」
「…もしかして家の手伝いって」
「うんそう。パン屋のお手伝い」
「いいな。おいしそう」

噛み合わない。
多分羨ましいって意味なんだろうと思うけど。
その感想がおいしそうってどういうことなんだろう。
思わず苦笑すると、スッと目の前にポッチーが差し出される。

ちんのだけど、食べる?」
「あ、うん。じゃあ」

差し出されたそれを指で摘まんで受け取る。
紫原くんの手にあった時はあんなに小さく見えたのに。
なんだか私と彼との間に次元の違いがあって、そこを通過してポッチーが縮んだみたい。

ちんお菓子持ってるの意外だったし」
「え、そう?私いつも鞄にお菓子入ってるよ?」
「え、マジで」
「マジで」

何故かそこに物凄く驚く紫原くん。
私ってどういう認識をされていたのだろう。
一応これでも女子ですし、甘いものには目がない。
新作のお菓子は割と買って食べるし、チョコレートは毎日食べるくらい。
そういうところは紫原くんと似てるかも。
ただ、彼の場合はあれだけ食べても太らないというところが羨ましいところだ。

「今度お菓子なくなったらちんに貰おう」
「え、酷い」
「その代わりちんのお菓子なくなったらあげるね」
「…くれる、の?」
「だってちんだから」

その言葉にどきんとする。

「どういう、」
「あ、休憩終わるよー」
「え!うわ本当だ!!ストップウォッチ用意するんだった!!」

今の言葉について言及しようとして、紫原くんが壁に掛かっている時計を見上げた。
そして休憩時間がもう間もなくで終わることを告げる。
つられて私も時間を確認して、思いのほか部室でゆっくりしすぎたことを認識した。
そうだこの後ダッシュの練習だった。
体育館倉庫からストップウォッチを持ってこなければ。
慌てて私はノートとペンケースを掴んで、紫原くんと部室を出た。

ねえむっくん。さっきのは、どういう意味?
その言葉は言えなかった。


【あとがき】
わたくし管理人も、実を言うとむっくん並にお菓子を貪ります。
至る所にお菓子を潜ませておりますので、基本お菓子を欠かしたことはないかも(笑)
つまりお菓子がないって言うのは死活問題なのです!(だから何だって話ですけど)
今回のポイントは"彼女だから"ってところでしょうかね。
理由は、まだまだ無自覚なので判ってないってことでひとつ。

[2013/11/6]