さんがマネージャーになって、早いものでもう数週間が経っていた。
最初のうちはスコアを間違えたり練習メニューの組み方を理解してなくてヘマをやらかしたり、ぶっちゃけ足手纏いレベルだったのに。
気付けば、以前間違えてたスコアの点の見方も分かるようになっていて、雅子ちんから預かる練習メニューも意味を理解してからオレたちに振るようになった。

彼女の成長ぶりは明らかで、部員としても打ち解け始めていて。
室ちんたちに囲まれる彼女を見るたびにもやもやした。
まただ。最近こんなんばっかりだし。

ちん、ちん」
「え?…っわ」

オレが急に声を掛けたからか、それとも視界にオレの腹しか見えなかったからか。
彼女が驚いて一歩下がり、ようやくオレを見上げる。

「オレのタオル知らない?」
「そう言えばさっきお菓子取りに行くって部室戻った後、持ってなかったよね」

オレはタオルを探していて、何処かで見てないかと尋ねれば彼女はオレの行動を思い返していて。
何だかんだで彼女はちゃんと見ていてくれている。
あれだけ色々把握して駆け回っているのに。
さんに言われてオレは自分のタオルを部室に置いてきたことをようやく思い出す。
そうだった。さっきお菓子取りに行ってそのまま置いてきたんだし。

「ああでも、私予備持ってるよ。はい」

取りに戻るのも面倒だな、もうTシャツで拭けばいいか。なんて思っていたら、彼女が予備だと言うタオルを差し出した。
水玉模様の小柄なタオル。
それを受け取って彼女と見比べる。
貸してくれるって言うんだし、と言葉に甘えることにした。

「(なんか…いい匂い、するし)」

干し立ての太陽の匂いに混じって、何処か甘い、匂い。
少しだけ香る菓子パンの、あの匂いもあった。
そう言えば彼女に洗ってもらったタオルも、そんな匂いがしてたし。

そう思っていると、通りかかった福ちんが彼女にこの後の予定を告げた。
そういやこの人、何でさんのこと名前で呼んでんだし。室ちんは何となく分かるけど。
面白くない、なんて思っていると、次は劉ちんが絆創膏の場所を尋ねてきた。
絆創膏を持っていた彼女は貼ってくれと言われるがままにその指に巻き付けていて。
それくらい自分でやれし。
ついでとばかりに彼女の頭をひと撫でして去っていく劉ちん。
だから、何でそれやる必要があるんだし。確かにさんの頭は手を置きたくなる位置にあるけど。
黒ちんは頭撫でたら怒るのに、さんは嫌がらない。頭撫でられるのが好きなんだろうか。
それより気付いたら怪我をすると言った彼女に、オレの目線は彼女の膝に向いた。
確かにまた痣が出来てる。先週は左の膝にも出来てたし。
今度は遠くから岡ちんの声が飛んできた。
それに対して彼女もいつもよりちょっと大きい声で返事を返す。

楽しそうに仕事をこなす彼女の横顔は、先生にあれこれ押し付けられて手伝う時に見せるそれとは違っていた。
苦笑混じりじゃない。多分楽しいと思ってやっている。そんな顔。
多分それは凄くいい事のはずなのに、それが何だかオレの気持ちをかき乱してる。
オレは、今どんな顔をしているのか。
自分ではよく分からなかった。


【あとがき】
子供のような感覚を持つ彼からすれば、成長して馴染んでいく彼女と何も変われない自分にジレンマを感じていると言うか。
言ってしまえば子供の我儘に近い感覚かなあと思いますが。
まあ置いてけぼりを食らっているような状態と言えばしっくりくるでしょうかね。

[2013/11/11]