囲まれていたさんがようやく解放されたと思ったら、今度は室ちんが彼女に歩み寄ってるのが見えた。
強張っているように見えた彼女の表情は、室ちんが話しかけたことによって解れているようで。
ああまた、あんな顔してるし。
何となくその雰囲気を壊したくて、「ちん」なんて二人の間に割って入る。

「雅子ちんが適当に着替えた方がいいだろうって。さっき」
「そうだった。ジャージ持ってきたよ」

そう言って持ち上げたのは女子がよく持ってるビニールの肩から掛けるやつ。
これで体操着だったら面白かったのに、なんて思いながら室ちんに彼女を部室に連れていく旨を告げて案内する。
体育館を出たところで、後ろをついてきた彼女をちらりと振り返って、そう言えばと思っていたことを口にしてみた。

「やっぱちんって律儀だね」
「え?」
「マネージャー。嫌じゃねーの?」

自分から彼女に頼み込んだくせに、何言ってんだろうとは思ったが気になった。
もし嫌々だったら、と。
どうせ彼女のことだから、頼まれたら断れないと言ういつものアレかと思って表情を見てみたが、 考えとは相反して何処かスッキリした表情をしていて「嫌じゃないよ」と言った。

「ふーん」
「誰かの為に何かするの、嫌いじゃない」
「よくわかんないし」
「多分、紫原くんにも分かるよ。いつか」

そうなんだろうか。
誰かのために何かするって、それって自分の労力の無駄だし。
見返りがあるなら別だけど、結局は自己満足だと思う。
そう思って脳裏を過ったのは彼女を手伝った図書館の出来事。
確かにあの時オレは無視してあの場を立ち去ろうとしたけど。
そして見返りもなく彼女を助けてあげたけど。
思えばあの時貰ったものと言えば「ありがとう」という言葉くらいだ。

何でオレ、あの時助けてあげようなんて思ったんだし。
まあその時の出来事があったから、彼女とこうしているようなものだけど。

「ん、部室ここね」
「うん」

前にタオルを干していたから場所は分かってるだろうけど、今度は扉を開けて中に通す。
ごちゃごちゃしてて汚い、なんてほどじゃないけど割と散らかっている。
それを横目にしながら彼女のためのロッカーを探そうと空きを見繕ったのだが。

「ロッカー…えーと、どれ空いてるんだろ。オレのはここ」
「先輩のは?」

自分のロッカーを開ける。
足元にポトポトとまいう棒が落ちてきた。
ああ、購買で買ったやつ、食べないと、とそれを拾う。
先輩のは、と訊かれてオレは首を捻った。
室ちんが隣だって言うのは憶えている。着替えの時いつも隣にいるし。
でもその他の人が何処を使ってるかなんて憶えてなくて、室ちんの隣から順番に開けていく。
あ、ここ空っぽ。あ、ここ使ってる、誰んだろ。
一通り端まで開けた結果、何となく手前らへんは使っているという事が判明した。
それを彼女に教えてあげれば何処か困ったような表情。

うーん、と唸ったさんはそのままオレを通り過ぎると、オレの隣の隣、奥のロッカーを開けた。
どうやら何も入ってなかったようで、空きだったらしい。
そこに荷物を入れるのを確認して、オレは先程拾ったまいう棒を開けた。
たこ焼き納豆味。うん。意外にイケるし。

「…もしかしなくても、本命そっち?」
「ほんめいって何だし」
「私案内すると言うよりは、お菓子が食べたかったとか」
「おー、ちんよく分かったねー」

凄い凄いと拍手を送ってみる。
一応さんを部室に案内するように言われてたのは本当だけど、どうせ部室に行くならお菓子が食べれるし。
と思ったのはついさっき。
サボりじゃない、ちゃんとした名目でお菓子が食べれるのはオレの計算勝ちだと思う。
呆れたような顔をした彼女はそのままがさごそと鞄の中を漁っているようで、ふと今日は何をするんだろうと疑問に思った。
それを訊いてみれば意図が伝わらなかったのか何が?と首を傾げる。

「マネージャーって、さっちんがやってたことすんのかなって」
「…さっちんってどちら様?」
「中学の時、マネージャーしてた子」

オレが知ってるマネージャーと言えば帝光んときのさっちんくらい。
そう口にすれば彼女は誰だと、当たり前のことを訊いてきた。
そりゃそうだ。中学のオレを知らない彼女。オレがキセキの世代なんて呼ばれてることさえ知らないっぽいし。
中学の時のさっちんを思い出しながら説明すると、へえと納得したように頷いた。
さっちんは確か峰ちんを追い駆けて同じところに行った気がする。
あの二人何だかんだで仲が良いし。幼馴染っていいかも、なんて思った。

その後何か考え事をしていたさんを呼び戻すと、彼女は鞄からバスケット入門なんて本を持ち出した。
何と言うか、ミドちんみたいに真面目。
形に拘るミドちんのように、彼女も所謂登竜門のような感覚でそれを手にしたんだと思うけど。
結局は努力でカバーしようとするその感覚は、オレにはよく分からない。
自然に覚えることなのに。変なの。

「あのね、一応こういうの見て勉強もするけど、分からないことがあったら…その、」

勉強してもまだ不安だ、と言うような彼女にオレは「教えるし」なんて口走っていた。
仮にも彼女を引っ張り込んだのはオレだし、その責任くらいはと思ってのことだけど。
でもそうだ、オレマネージャーの仕事とかよく分かんないし。
適当にドリンク作ったりタオル渡してればそれっぽいんじゃないかと思うけど、さっちんそれ以外もやってたかも。

まあ何とかなるっしょ。
だってあとはやって覚えればいいんだから。


【あとがき】
相変わらずむっくんのゆるゆるな考えて難しいと思う!!!!(書いてて)
頭は悪くないから理屈は合っているし、間違ってないからそのほかの考えって出来ないんだろうけど。
その一貫した方向性の考えのもと話を進めるって難しいですね。
とりあえず勝ちに拘るむっくんなので、って言うかキセキはやたらとそこ拘りますけど。
だからこそ負けたくないって気持ちだけは誰よりも強いから…と、言ってもむっくんは特殊かな(苦笑)

[2013/11/9]