「お前がか」
「は、はい」

私の前に現れたのは、スーツの美人さん。
だけど、手に竹刀を持っているちょっと怖い感じのお姉さんでした。

紫原くんにバスケ部の入部届をもらって数日。
私はそれを監督だという先生に提出しに職員室を訪れていた。
「これ雅子ちんに提出してね」「荒木監督、だろ、アツシ」「そうそう。カントク」
正直言って彼らの説明はまったく意味がよく分からなかった。
取りあえず職員室脇の窓から声を掛けて、バスケ部の監督だと言う荒木先生を呼んで欲しいとお願いした。
すると、出てきたのはスーツ姿の美人さん。かと思いきや、手には不釣り合いな竹刀を持っていて。
顔が引きつってしまったのは許して欲しい。

「ふうん。お前が、ね」
「……あの、私のこと」
「ああ、紫原と氷室から聞いてるよ。あの、紫原が、ね」
「はあ…」

何を聞いているというのだろうか。
荒木先生(私たちのクラスの担当ではないけれど体育の先生らしい)は、私を上から下まで値踏みするのかのように見た。
怖い雰囲気を持っているが、美しさは氷室先輩並だ。

「紫原が私のところに入部届を欲しいと言ってきた時はびっくりした」
「……」
「てっきり新しい、いい選手でも見つけてきたのかと思えば、マネージャーを入れたいと申し出てきたよ」

---

「雅子ちん」
「監督だ」
「カントク」
「………何だ」

珍しくまともに呼ぶものだから、手を止めて紫原に向き直る。
紫原はいつものけだるげな面持ちを少しだけ正して。

「入部届欲しいんだけど」
「誰か選手でも入れる気か?」
「ちげーし。マネージャーだし」
「……何?」

その言葉に耳を疑った。
紫原がバスケのことにあまり強い関心を持っていない事は知っていた。
それが紫原に葛藤を抱かせていることも分かっていた。
そんな紫原が、自らバスケに関わる発言を申し入れてきたことに驚く。
しかしそれは少しズレた申し出だった。

「マネージャー」
「却下だ」
「何でだし」
「お前、マネージャーが欲しいのか?」
「うん、まあ」
「監督の私だけでは不服という訳か」
「だって雅子ちんはカントクっしょ?」
「……」

その発言には一理あった。
監督という立場上、意見し指導することはあっても彼らをサポートする訳ではない。
そんなの自分たちでしやがれ、これがモットーだ。

「…信頼に値するような人間なのか?」
ちんは律儀で真面目な子だよ」
「その"ちん"とやらが律儀で真面目なのはいいが、バスケに関する知識は?マネジメント能力はどうなんだ?」
「さあ、知らねえし。バスケのことも詳しくないって言ってた」
「なおさら却下だ」

頭が痛くなってきた。
何を考えているんだこの男は。
普段あまり口を出さないと思えば急にマネージャーを入れたいと言う。
しかもその人間はあまりバスケに精通していないどころかマネジメント能力もない。
そんな人間を入れても精々雑用にしかならない。

「お前は雑用を入れたいのか?マネージャーと言うからにはそれなりの」
「大丈夫っしょ」
「は?」
「だから入部届、ちょーだい」

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「紫原のことだから、どうせ菓子で釣られたんだと思ったんだが。まあまあだな」
「…えっと」
「それを貸せ」
「………あ、はい」

持っていた入部届を監督に手渡す。
ぺらりとそれに目を通した監督は、ふう、と詰めていた息を吐き出して。

「私は指導する立場だ。それが選手であれ、マネージャーであれ、それは変わらない」
「はい」
「ビシバシこき使うからな」
「…は、はい!」
「明日正式にマネージャーとして迎え入れる。今日は適当に見学して行け」
「よろしくお願いします」

頼んだよ、マネージャー。
荒木監督が背を向けてふっと微笑む。
その横顔にちょっとどきっとしてしまったのは、ナイショだ。


【あとがき】
荒木雅子監督ってどんな人なんでしょうか(爆)
色々資料かき集めたうえで、個人的独断でこういうイメージに仕上がったんですが。
とりあえず第一印象は美人な方だなあ。え、竹刀持ってんの?えっ、元ヤン?だった訳ですけども。
口調や人当たりは強いもののしっかりしてそうで面倒見が良さそうってのが私の考えです。
監督に微笑まれたらキュンとすると思います。

[2013/10/24]