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「へー。室ちんが」 「?」 急に低くなった紫原くんの声にびっくりして顔を見やった。 彼は唇を尖らせてそっぽを向いていて。 怒っているのだろうか。もしそうなら、何故。 「むらさきば」 「やってよ、まねーじゃー」 「えっ」 反らしていた顔をこちらに向けて、目をスッと細められる。 真剣な声と表情に、何より向けられた視線にどきっとした。 「やって、って」 「何がダメなの」 「さっきも言ったけど、家のこと、とか」 「別に毎日じゃないっしょ」 「そうだけど。運動そんなに出来ない」 「別にマネージャーはバスケしねーし」 「…バスケ詳しくない」 何故こんなにも彼がマネージャーに拘るのかは分からないが。 私にだって私なりの都合がある。 今並べてきた言葉は嘘じゃない。 家の手伝い、運動は平均並、極め付けにはバスケに関する知識が乏しいこと。 マネージャーになるのなら、そういうところにも精通していないときっと難しいと思う。 マネージャーになるのが嫌な訳じゃない。けれど。 「だったら何?」 「っえ?」 言葉を強めた紫原くんが机に凭れ掛かっていた体を起こす。 目線が高くなって再び紫原くんを見上げる位置になる。 「詳しくなかったら何?マネージャー出来ないの?」 「だって少しでも興味がある人にマネージャーしてもらったほうが」 「別にいいじゃん。だってオレ別にバスケ好きじゃなくてもバスケ部にいるし」 「……紫原、くん?」 顔が強張る。 紫原くんは怒っているのかそうでないのか、判断しづらい表情をしていて。 分からない、紫原くんが。 彼は何をそんなに苦しんでいるのだろう。 「キョーミなかったらバスケしちゃ駄目なの?室ちんがちんをマネージャーに誘ったのは、素質があったからじゃねーの?」 「それは…」 「だったらそれでいいじゃん。好きじゃなかったら出来ないなんて誰が決めたんだし」 「むら」 「だったらオレはっ!」 びくっとして口を閉じるしかなかった。 紫原くんが言葉を強めて立ち上がる。 その手は強く握りしめられていて。 呼吸が乱れている。 はじめて彼がこんなにも感情を露わにしているところを見た気がする。 例えるならそう、自分のことを誰にも理解してもらえないかのような。 「…ごめん、何でもねーし」 ふー、と息を吐き出して、握ったこぶしを広げて顔を覆った。 そのまま長い前髪をかき上げてから自分を落ち着かせるように大きく息を吸い込んで。 「ねえ紫原くん」 「……何?」 「何で、私なの」 紫原くんだけじゃない。氷室先輩もそう。 どうして私なのだろう。 だってバスケ部を、彼らをサポートしたいっていう子なんてたくさんいると思う。 確かにミーハー的な、そういう好意を向けてくる子もいるかもしれないけれど。 それでも、中には与えた仕事をきっとそつなくこなしてくれる子だっているはずなのに。 どうして拘るのだろう。私に。 「わかんない」 「………」 「そんなん、わかんねーし」 真っ直ぐ私の目を見て言葉を繋ぐ紫原くん。 子供じみているとか、体格は大人だと言われる彼だけれど、ちっともそんな事はなくて。 多分彼はそういう目で見られているだけだ。 中身は凄く、年相応で。 その表情に私は思わず笑っていた。 ああ、紫原くんが驚いた顔をしている。 凄く新鮮な気がするよ。 「あはっははは」 「何が、おかしーん…だし」 「あはははは。ごめん、ごめん。ただ」 「??」 びっくりした後、鳩が豆鉄砲を食らったようなそんな顔。 凄く困惑している顔。 表情の崩れにくい彼が百面相をしている。 あの、紫原くんが、だ。 「うん。有難う」 「はあ?」 「そっか。うん」 きっかけは本当に些細なことだったはずなのに。 そのきっかけがこんなにも大きくなるなんて。 「いいよ、やっても」 「………」 「マネージャー。私でいいなら。やってもいいよ」 役に立てるかは保証しかねるけど。 だって言葉通り、本当に役に立てるかは分からない。 むしろ足を引っ張る可能性のほうが高いと思う。 それでも、彼らが必要としてくれるなら。 私はちょっとワクワクした。だって今までこんなにワクワクすることなんてなかったのだから。 その後ちょっと待っててと彼は言い残すと教室を出て行って。 ちょっと、と言うから数分かと思いきや、紫原くんが戻ってきたのはそれから20分も後のことで。 戻ってきた彼が手に持っていたのは入部届と思われる紙と、何故かもう片方の手に氷室先輩を掴んでいて。 その後訳も分からず連れて来られた氷室先輩に、改めて先程と同じ内容を説明するのだった。 |
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【あとがき】 てな訳で、ようやっとマネージャーの話題が出ましたね。 私のイメージでしかないですが、むっくんってあんまり感情の起伏がないように思います。 だから笑ったり怒ったりってちょっと貴重かなーって。 特にバスケをやる理由について。好きか嫌いかの言葉にはとっても敏感ですよね。 そこらへんをですね、この作品で成長させてあげられたらなって思っています。 むっくんが彼女をマネージャーとして声を掛けた理由、今のところは、理由ありません。 自覚をしていないので、ね。 [2013/10/23] |