「ああ、、それから紫原」

名前を呼ばれて振り返る。
なんか嫌な予感するし。
そう思いながらもう一人名前を呼ばれたさんを見る。
ああ、なんか次に言われる台詞、想像出来たかも。

「すまんがこれを私の準備室まで運んでおいてくれないか?」
「えー」

だろうと思った。
何それすげえ面倒くさい。
口から出てきたのは不可抗力だ。
だって勝手に出てきた。

さんを見ればやっぱり苦笑気味にしょうがないな、なんて顔をしている。
先生、オレこのキャンディーだけじゃ足んねーんだけど。

「アン○ンマンのキャンディーって先生趣味わりー」
「先生確か小さい子供さんいるって言ってたからね」
「ふーん」

さすが先生とよく話してるだけはあると思う。
そんな情報別に聞いてもないし、他に使うところなさそうだし。
とりあえず飴食べよ。
オレが飴を口に入れると、彼女は持っていたノートを教卓に置かれた山の上に置く。
もしかしてと見ていれば案の定それを持ち上げようとしてるし。
いやいや、おかしーでしょ。
さんがそれ持ったらオレ何持つの?その隣の軽そうな箱?
あーもう。
何でそう言う不思議そうな顔するんだろう。
状況的に見てそれを持つのはオレなのに。

「…?」
「これはオレが持つし。ちんはそれ持って」

奪うようにノートを抱え上げながら「それ」と目線を教材道具の箱に向ける。
彼女が箱を見やる間にさっさと教室を出ていく。
慌てたように出てきた彼女は何かを言いたげにオレの顔を見ているようだったが気にせずに目的地を目指した。
しばらく無言で歩いていて思った。
オレの足音と彼女の足音。
オレが一歩歩くと彼女が三歩ほど早歩きをする。
歩くペースを落とした方がいいのだろうとは思ったが、彼女の言葉で考えを中断させられる。

「ねえ紫原くん」
「なにー」
「何で断らなかったの?」
「何が?」

断るって何を?この"お手伝い"のこと?
そういう意味を込めて彼女を見下ろすが、さんの方が不思議そうな顔してる。

「男の子って、こういう頼まれごと?だいたい面倒くさいってやらないから」
「別に。ただの気紛れだし」
「そっか」

納得してない様子な横顔。
畳み掛けるようにオレがもし手伝わなかったら、誰もやらなかったら、と訊けば困ったように口を閉ざした。
オレは何ともないけど、ノート約40冊。
そこそこの重さだ。女子でも無理をすれば運べるかもしれないが、普通に運ぶのは難しいし。
彼女のこういうところが何だか、気に入らない。
オレだって鬼でもましてやその辺の不良とも違う。
確かに手伝いなんて見返りなんて何もないし(今回は飴もらったけど)、得することなんて何もないけど。
頼まれたらやるし、押し付けるような無責任なことはしない。
なのに彼女はオレが嫌々、渋々やってるように言う。
それに自分だってもし一人でこれを頼まれたらどうにも出来ないのに。

「(何でちんは誰にも、)」

オレとは感覚が違うからか。
イライラする。

ちんって」
「ん?」
「よくわかんない」

彼女にぶつけちゃいけないのに。
なんだこれ。オレ嫌なやつだ。

結局気まずいまま数学準備室に到着。
オレはノートを片手に纏めて扉を押さえる。
彼女が中に入ったのを確認してから、扉を離して先生の机にノートを乗せた。
あ、やべ、プリント倒しちゃったし。
机から零れ落ちそうになるプリントの山を慌てて腕で堰き止める。
腕の長さに助けられた。

さんはもう戻し終わっただろうかとそちらを見れば、いつぞかに見たような光景。
そうだ、初めて彼女とちゃんと会話をした時も、あんな風な感じだったし。
前も思ったけど、何で踏み台とか使わないんだろう。
もしくは、背の高いオレがいるんだから頼めばいいのに。

「ぅわ!?」

本と違って手から奪って戻すようなことが出来ない体勢だったから、さんごと持ち上げることにした。
彼女の背後に回って腰を掴んで持ち上げる。
うわ、軽…っ。つーかこうしてみるとさんって細いし本当に小さい。
オレが急に持ち上げたせいかさんはびっくりした様子で、「紫原くん!」なんて振り返った。

「戻さねーの?」
「や、あの、だっ」
「はやくー」
「は、はい」

重くもなんともないけど、腕上げてるのは疲れるし。
戻すよう促すと、何かを言いたげにしていた彼女は渋々前を向き直して荷物を棚に戻した。
それを確認してからゆっくりと彼女を下してあげる。
改めて見てみると、彼女の身長はオレの胸よりちょっと下。
多分今の行いに対して何かを言おうとしたのだろうが、そんな言葉を遮ってオレは近くに置いてあった30センチ定規を掴んだ。
彼女の頭の上にそれを乗せてみるが、これを足してもまだオレの身長には及ばない。

「なにして…」
「うわ、これ足してもオレの身長に届かねーし」
「……馬鹿にされてる?」

今まで女の子の身長ってあんまり意識したことなかったけど、こうして比べてみると凄く小さい。
ああ、さんって、こんなにも小さかったんだ。


【あとがき】
普段から自分が大きいことを自覚したうえで、周りが小さいのは頭のどこかで分かっているはず。
それが今回、改めて目視して把握することでより小ささを再確認させました。
女の子は小さいもの。それが大事です。
でもって自分の中の違和感、ズレ、にそろそろ苦しみ始めます。

[2013/11/6]