部活の休憩中。
外の水道で水でも飲んで来ようとふらりと体育館の裏手に出て、ふと部室前の人影に目をとめた。
誰かがいる。偵察?泥棒?
そう思ったが、その人影は見たことのあるものだった。

「(ちんじゃん)」

誰かと思えば同じクラスのさん。
そう言えば最近よくこの名前を口にする気がする。
今までそんなに仲が良かった訳じゃないのに。
そう考えるとすげー不思議。
っていうか何してんだし、部室の前で。
しばらく観察していれば、どうやら彼女はタオルを干しているようで。
何でバスケ部のタオルを彼女が干しているのか甚だ謎で。
気付けばオレの足はそちらに伸びていた。

「あれ〜、なにしてんの?」
「え、っと。タオルを…干してる」

声を掛けると、彼女はびっくりしてこちらを振り向き、そして自分のしている行動を口にした。
それは見れば分かる。聞きたいのはそういう事じゃない。

「んなの、見りゃわかるし」
「ですよね」

さんが表情を崩す。
誤魔化そうとしてるのばればれだし。
本当、何してるのかわかんない。

ちんってまねーじゃーだったっけ」
「いいえ、違います」
「じゃあなんでそんな面倒くさいことしてんの?」
「た、頼まれた…から?」
「ふーん。ちんってりちぎだね」

それは前々から、先生の手伝いとかしてる時から思ってたこと。
面倒くさいことが好きなのか、ただのお人よしなのか。
多分後者だと思うけど。
何て言うか、努力とかお人よしとか、見てて少しイライラする。
オレが言ったことに対して返す言葉が見つからなかったのか、彼女はやっぱり苦笑していて。
無理してる感じがして、何だか面白くなかった。

そんな事を思っていると、後ろから足音が聞こえてきて、「わ。もう終わりそうだね」なんて良く知った声が聞こえてきた。
首だけで後ろを見れば案の定、走ってきたのは室ちんで。

「まさか本当に引き受けてくれるとは思ってなくて」
「何度か放り投げて帰ろうかと思いました」
「うん。でもキミはそういうのしない子だって思ってたから。本当に有難う」
「………いいえ」

室ちんとさんの会話をただ横に突っ立って見ている。
なんか、オレだけ除け者みたい。
オレがそんな事を考えているなんてまるで分かってないかのように、二人はお礼がどうとかそんな話をしている。
横目にさんを見下ろしてみれば、彼女は何処か照れたようにはにかんでいて。
そういう顔、凄く無防備だと思う。
ほらそんな顔するから、室ちんが簡単に頭を撫でてるし。
なんか、むかつく。

「っていうか、オレ無視しないで欲しいし」

気が付けば、口からそんな言葉が零れていた。
悪いアツシ、と室ちんがあんまり申し訳なさそうに思ってない顔で謝る。
別に室ちんが悪いことをしている訳じゃないのに。
でも、何だか気分がスッキリしないせいか、質問攻めみたいに室ちんに言葉を投げてしまった。

「うん。彼女なら最後までやってくれると思ってね」
「………ふーん」

どうして雑用を頼んだのか、と訊けば、そんな答えが返ってきた。
初対面の室ちんにまでさんのお人よしが見抜かれてるとか。
それなのに彼女はやっぱり誤魔化すような笑みを浮かべる。
そう言うのが面倒なことを引き寄せていると言うのに、何で彼女は気付かないんだろう。
多分オレの顔、ちょっと不機嫌な顔してると思う。

「ほらアツシ。キミがそんな顔をするから彼女怖がってるよ」
「えっ」

室ちんがからかうようにそんな事を言ってきた。
分かってるよ、そんな事。言われなくても。
わざわざ口に出されたせいか、彼女が恐る恐るこちらを窺ってきた。
怖がられているのかと思うと、それは何だか面白くなくて。
でも、素直に認めるのが嫌で。

「別にいいし」

別にさんにどう思われようと、オレには何の関係もないことだし。
だから別にどうだっていい。
そう答えると、彼女が一瞬だけ驚いたような顔をした。
何その顔。それじゃあまるで、オレが傷つけたみたいな。

そんなオレと彼女の空気を読み取ってか室ちんが話題を変えた。
まだお礼がどうとかそんな話をしている。
彼女がいらないって言ってるんだから放っておけばいいのに。
そう思っていたら。

「本当にキミって可愛いね」

室ちんが可愛い、なんて言葉を口にした。
さんを見れば顔が少し赤くなっていて。
室ちんはもう少し自分のことを理解すべきだと思う。
男のオレから見ても、室ちんの顔は整っているって分かる。
だから女の子がきゃーきゃーうるせーんだし。
っていうか、さんもそうやって隙だらけだから、室ちんに遊ばれるんだし。
嫌なら嫌って、ちゃんと言えばいいのに。

「アツシが彼女を連れてるからびっくりしたよ」
「いやあの」
「彼女じゃねーし」

何言ってんの室ちん。
何となく室ちんから出てきた"彼女"という言葉にイラついて、否定した。
さんはただクラスが一緒だったってだけの子だし。
甘い匂いがした時に少し彼女のことが気になったけど、結局お菓子とかくれなかった。
それ以降関わりもなかったし、この間図書館で偶然見かけたけど、ただそれだけだ。

だから何で、さんはそんな顔すんだし。

さっきから何だかもやもやする。
お菓子を食べてないからかもしれない。
そう言えば折角の休憩なのにお菓子を食べれていない。
ああ、だからオレイライラしてるんだ。

「紫原くん!」
「…んー、?」

オレが空気を悪くしたせいか、また室ちんが間を取り繕っていたようで。
何かを二人で話した後、さんに名前を呼ばれた。
見れば「これ!有難う!」と前回貸したタオルを差し出していて。
ご丁寧に袋に入れられていて、洗ってあることが分かった。

「………どうも」
「あとそれから、これも」

受け取ったタオルの上に何かが置かれた。
キューブ型のチョコレート、チョロルチョコだ。

「タオルのお礼と、図書館でのお礼」
「……あんがと」

別にお礼とかどうでもいいのに。
でも、そういうさりげない気遣いがちょっと嬉しかった。
あれ、オレああいう律儀なところ、嫌だって思ってたはずなのに。
変なの。
指でチョコを摘まんで、自分に笑ってみた。

その後体育館から声がして、休憩がもうすぐ終わることを告げられる。
あーあ。お菓子食べようと思ったのに、結局何も食べられなかった。
仕方ないからこのチョコで我慢しよう。
そう思っていたら、室ちんが一足先に体育館の方へ向かった。
ああ、オレも行かなきゃ。
と、思ったけどその前に。

「…紫原…くん?」

さんの頭に手を乗せる。
前も思ったけど小さい。バスケットボールよりも小さい。
だってオレの片手で掴めるくらい。ボールだって余裕で掴めるから当然だけど。
何となくその頭をわしわしと撫でる。
やっぱり犬とかそういう感じの動物に似てる。
だって頭撫でると、さん変な顔をする。
それが面白いんだけど。

ちんって隙だらけだよね〜」
「え」
「でもヒネリつぶしたくなんねーし」
「ん?ん??」

隙だらけでイライラする。
簡単に自分の間合いに人を入れるところもイライラする。
でも、ヒネリつぶしたくなんねーし。
何でだろ。
考えたら余計分からなくなって、誤魔化すようにさんの髪をぐちゃぐちゃにしてみた。
これ意外と好きかも。

部活に戻ろうとさんに別れを告げれば、頑張ってなんて言葉が返ってきた。
そういえば、さっちんにもそんな言葉言われてたな。
さっちん、元気かな。


【あとがき】
まず認識しておいていただきたのが、彼はイライラしているってことですかね。
何と言うか、自分の感情に戸惑って持て余しているってところです。
彼女が何かをするたびにイライラする。
その気持ちが何か別のものになることをまだ知らないっていう段階ですね。

[2013/10/23]