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雨に降られてから2日後。 私は紫原くんのタオルを鞄に潜ませていた。 流石にあのまま返すわけにもいかず、きちんと洗って軽くアイロンを掛けた。 アイロンを掛けたのはなんとなく、シワがあるまま返すのは申し訳ないなって思ったからで。 別に他意は、ない。 紫原くんと接触する。 恐らくこの学校に来てから初めての事ではなかろうか。 普段、男の子と話すことがない訳じゃない。 他愛ない話だってするし、ちょっとした談笑だってする。 でもそこに紫原くんはいなかったと思う。 初めての事に緊張してたせいか、結局朝も休み時間も昼も、紫原くんに声を掛けることは出来なくて。 放課後。ようやく決心がついた私はいざ紫原くんの席に。 と、思ったのだが。 「あれ」 いない。 紫原くんの席はもぬけの殻というか違う男子生徒が談笑のために座っていて。 当の本人どころか荷物さえもなくなっていて。 「うう…遅かった…」 帰ったのか部活に向かったのか。 どちらにせよまずは体育館を覗いてくる必要がある。 はあ、と重たいため息を零し、私は帰宅準備を整えてから体育館へと向かった。 --- 放課後の体育館や校庭はとても賑わっている。 運動系の部活に属したことがないため、この空気はなんだか新鮮だった。 遠くの吹奏楽部の音に混じって聞こえるバスケットボールの弾む音。 どうやら今日は部活の日で良かったようだ。 開けっ放しになっている体育館の扉脇からこっそりと中を覗き込む。 別に偵察のようなやましいことをしている訳じゃないのだから、堂々と覗いてもいいのだけれど。 大きな体育館を全面使用しているのは案の定バスケ部で。 確か日ごとにバレー部と半面ずつに分けて練習する日もあったと思われる。 それでもうちはバスケが強いらしく、割とバスケ部の融通が利く。 「えーっと、紫原くんは…」 キョロキョロと。それでもこっそりと。 体育館を見回していると。 「ひっ!?」 突如爆発音のような。 ズバン、という凄まじい音が鼓膜を劈いた。 驚いて音の根源を見れば、巨体が宙に浮いている。 いいや違う。 2メートルを超えるその大きな身体が、バスケットゴールを掴んでゆらゆらと揺れていたのだ。 「紫原くん…」 バン、と凄い音を立てて地面に着地した彼は先輩と思われる人に何故か怒鳴られていた。 恐らく、ゴールが壊れそうなほどに凄まじいダンクシュートを放ってしまったから、だと思われる。 という事は先程の音の根源は紫原くんのダンクシュートの音、という訳だ。 「あんなに凄い音がするんだ…」 体育で行うバスケットボールとはまるで違う世界。 男子のプレイをたまに目にすることがあるけれど、恐らくそれよりももっと凄いものなのだと。 まったくバスケに詳しくない私でさえ分かる。 「あれ?こんなところでどうしたの?」 「?」 近くで声がした。 どうせ誰かに話掛けているのだろうと思ったら、話しかけたと思われる人は何故か私を見ていて。 「(おお、きい…)」 紫原くんよりは小さいけれど。 それでも長身だと一目で分かるその身長。 そして何より、いわゆる"美形"の部類に入るその顔立ち。 紫原くんもどちらかと言えばカッコイイ、イケメンの部類に入るのだが。 それに勝るとも劣らない容姿。 思わず見惚れてしまった、と言うのが正しいだろうか。 声を発することを忘れその人の顔を見つめていると。 「オレに用があったのかな?」 「ひぇ!あ、いやっ」 ひぇ、なんて変な裏返った声が出てしまった。 でもそれは不可抗力だ。 だって目の前の美形さんが顔を近づけて来たのだから。 一歩後ろへ下がって私はようやく瞬きをする。 何度見ても、やはり美形だ。 「ははっ、It's so cute」 「きゅ、きゅーと…」 初めて言われたそんな言葉。 しかもとっても発音がいい。 やはり美形さんは何をやらせてもパーフェクトという事なのだろうか。 そんなくだらないことを考えていると、目の前の美形さんはふと何かを目に留めた。 見ているのは、私が手に持っていたタオルだった。 「ん、あれ、それ…」 「え、っと。あの。紫原くんに、その…」 「ああ、アツシの彼女?」 「ええ!?いや、彼女じゃないです」 どうしていきなり彼女とか話が飛躍してしまったのか。 ああもしかして紫原くんの彼女さんはいつもこうしてタオルとか持ってきていたのだろうか。 いや、今そんな事はどうでもいい。 美形さんと対面しているというのはどうにも恥ずかしい。 早くこれを紫原くんに返却して、お礼を言って帰ろう。 そう思って、恐らく紫原くんのお知り合いだと思われる美形さんに、彼を呼んでもらおうと口を開きかけた直後。 「ねえ、キミ暇?」 「へ」 「ちょっと手伝って欲しいんだよね」 「え、っと?」 「ね?お願い」 何て凄まじいお願いスマイルなんだろう。 断りようもないほどに完璧な、まるでおとぎ話や映画に出てくるような王子様が微笑むような。 女性陣がいたらキャーなんて黄色い声が飛んできそうなほどに眩しいスマイル。(首かしげ付) こんな事をされたら世の女性は全て彼に惚れてしまうのではないかというそんな必殺の微笑みを向けられて。 私は思わず口籠ってしまった。 「あの…」 「お礼はさせて貰うから、ね?」 きっとそれは有無を言わせぬためのものだったに違いないと、後になって思うことなのだけれど。 私の麻痺した頭はそんなことを微塵も考えられなくて。 返事をする前に美形さんは私の手を取って何処かへずんずんと連れていく。 「実はとっても困っていてね。でも下手な子には頼めないし」 「はあ…」 「で、ちょうどいい所にキミが居たって訳だ」 「……はあ…」 「うん。いい返事だね」 連れて来られたのは体育館の裏にあるバスケ部の部室と思われる場所。 どうやらこの人は紫原くんと同じバスケ部の人、らしい。 その扉の前には洗濯カゴに入った白い塊。と思ったが、近づいてみればそれは大量のタオルが入っていて。 「本当に申し訳ないんだけど、これを干してくれないかな」 「…はい?」 「助かるよ」 「や、あの、今のは返事じゃなくて」 「実はもう練習に戻らないといけなくてね」 「あの…」 「干し終わる頃には休憩に入るだろうから、その時に様子を見に来るよ。お礼はその時に」 「えと、」 「じゃあ後はよろしく」 「………」 スルーってきっと、こういう事を言うのだろうと学習した。 |
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【あとがき】 すいません私陽泉の学校内どうなっているのか分からなくて。 彼らが何組なのかも分からなければ、どういう学校の構造になっていて学校のシステムはどうなっているのか。 すっごく知りたいのですが分からないのでまあもう妄想ですね。 後から訂正があるようだったら直す…と、思います(多分)。 今回はむっくんじゃなくて、美形さんとの遭遇でした。 [2013/10/19] |