何てことのないいつもと同じお昼休み。
私の手には一抱えほどの本の山が乗っている。
雑用をしている訳ではない。図書委員としてのれっきとしたお仕事なのである。

「よ、っと」

今現在、カートのままでは階段は登れないため本を抱えたまま階段を上がっている最中で、 何故備え付けのエレベーターを使わないかと言うと、 単純に歩いて階段を上った方がこの蔵書を戻すのに一番効果的だと私は学んだからだ。

お昼休みのこの時間帯。
ましてや晴れている日に図書館に足を運ぶ生徒は少ない。
そもそもに図書館に好き好んでくる生徒自体も少ないけれど。
階段を登りきり窓際の書棚に向かう。
やっと目的の一角が見えて来た、と思った直後、私の目はその突き当りのテーブルへと向いていた。

窓際の、日差しが射し込むその場所で。
テーブルに突っ伏している紫色の頭。
その光景を私は見たことがあった。

「(むらさきばらくん…?)」

教室の窓際。
今と同じように、少し窮屈そうな机と椅子に収まっている同じクラスの紫原敦くん。
外を見ることが好きだから時々窓の方を見ることがあるけれど、視界に入るその紫色の頭はだいたい机に沈んでいたりする。
彼はとにかく目立つ。
その長身も理由の一つだし、髪の色もそうだと思う。
あとは何だろう。お菓子をよく食べていたり、何だかマイペースだったり。
自然と視界に入ってくる。そんな人だ。

図書館にいるところは多分今まで見たことはなかったと思う。
いや彼もここの生徒だから、そういった勉強の類で図書館を訪れていてもおかしくはないのだが。

「……今日あったかいもんね」

紫原くんを照らしている陽の光はぽかぽかと心地よさそうで。
ひとつ笑みを零してから仕事に取り掛かるべく本を手に取った。
ようやく私の抱えていた本も徐々になくなり、残りあと1冊になったのだが。

「うー……ん、」

戻す場所が、私の身長を遥かに越えた場所だった。
踵を持ち上げてなんとか背表紙を押し込んでみる。
指先がギリギリで触れているくらいで、油断したら落ちてきてしまいそうな。
踏み台を持ってくれば良かったと思いながらも、あと少しで収まりそうなそれを頑張って支えていると。

「え」

スッと手に触れていたそれが奥に引っ込んだ感覚がした。
慌てて見上げれば戻そうと思っていた蔵書はあるべきところに収まっていて。
そして伸ばした私の手よりも更にその上に、誰かの指先が触れていた。
驚いて後ろを振り返れば。

「わ!」

視界を埋め尽くしたのは陽泉の白いワイシャツ。
余りにもその人物が近かったため、驚いて背中を本棚にぶつけてしまった。

「…ダイジョーブ?」
「あ、だいじょう、ぶ」

そろり、と持ち上げた目線が捉えたのは長身の男で。
その彼は先程窓際で眠っていた。

「有難う、紫原くん」
「起きたらなんかプルプルしながら危なっかしく本戻すのが見えたからね〜」
「うん、ご尤もで」

プルプル、という表現は多分とても的確で。
恥ずかしいと思いながらぺこりとお礼をすると、ポスンと頭に何かが乗せられた。
不思議に思いながら頭に手をやると、私の頭に乗せられたのはお菓子。
まいう棒だった。

「あの、」
ちんにあげるよ〜」
「え、なまえ…」
「んー?ちんでしょ?同じクラスの」

思わず紫原くんの顔を凝視してしまう。
同じクラスだったことだけでなく、名前まで憶えていてもらえたなんて。

「次からはちゃんと踏み台使った方がいいよ〜。じゃあねー」
「あ、あ!あの!」
「?」
「これ、ありがとう」
「さっきからお礼ばっかりだし」
「えと、じゃあ…また後で?」
「うん」

その答えに満足したのかは良く分からないが、紫原くんはヒラヒラと手を振って図書館を出ていった。


【あとがき】
短編でただただまとめていくシリーズにしようと思っていましたが、段取りを踏みたいという気持ちが抜けず、 結果連載のようなシリーズのような形になってしまいました(苦笑)
今回のときめきポイントはずばり、後ろに立って本を戻してくれたってところですね。身長差萌え!

ところで私まだ原作読んでないんですけどね。(爆弾発言)

[2013/10/18]