「…あ」

HRが終わって放課後を知らせるチャイムが鳴る。
ああ、そろそろ部活いかねーとだし。
でも起きるのダルいし。
なんてそんな事を考えていたら、机に伏せたオレの頭上で誰かの声がした。
女子だった。

「あの…」

カサリ、と音がした後、彼女が申し訳なさげに声を掛けて来た。
誰に声を掛けているのかは分からない。
どうせクラスの誰かなのだろうと思っていたが、つんつんと腕を突かれてオレはのっそりと頭を持ち上げる。

「あの、これ。あなたの?」

長い前髪の隙間から誰かがオレに何かを差し出していた。
そろそろ前髪切らねーと邪魔だな。でも切るの面倒だし。

「ねえってば」
「…なんだし」

うるさいな。
そう思いながら腕で上体を支えながら起き上がると、先程から声を掛けていたと思われる女子がオレを見ていて、
手に持った何かを差し出していた。
ああなんだ、オレに話しかけてたのか。

「何それ」
「いや、なにって。あなたのじゃないの?入部届」

にゅーぶとどけってなんだっけ。
そう思いながら差し出されている紙を見る。
ああそうだった。
そう言えばさっき先生が部活の入部届配ってたような、気がする。
寝てたからよく覚えてねーけど。

「あー。そうかも。あんがと」
「はい」

差し出されたそれを受け取ると。
彼女から甘い匂いがした。
お菓子みたいな匂いだった。
お菓子持ってんのかな?もしかしてそれオレにくれんのかな?
なんて思いながら、ただの興味本位で彼女の顔をようやく見た。

「それちゃんと個人の名前書いてあるんだし、なくさないようにしたほうがいいよ。じゃあ」

彼女は、オレにお菓子をくれるでもなくただただ注意を促すようにそれだけを言うと、 生徒と雑談をしていた先生のところに歩いて行った。
先生にプリントか何かを提出した後、帰ろうとしたところを先生に呼び止められて、今しがた提出したプリントを持つように言われている。
彼女は少し。ほんの少し嫌な顔をしたものの、しょうがないなと言うような顔をして、プリントの束を手に持った。
そして先生と一緒に教室を出て行く。

「何あれ…馬鹿みてーだし」

断ればいいのに。
どうせ彼女が手伝わずとも、他の誰かが手伝っただろうし。
それでも最悪先生が自分で持つことも出来ただろうに。
オレは手に残された入部届を見る。

さっき彼女から感じた甘い匂い。
お菓子の匂いによく似てた。
でもお菓子とはちょっと違ってた。

「ああ、パンのにおいだ」

多分菓子パンか何かの匂い。
美味しそうな匂いだった。
そう思ったら腹がぐーと音を立てた。
そういや放課後になってまだお菓子食べてねーし。
あー。バスケ部にこれ提出してこねーと。
ここに入学した時バスケ部以外のなんかの部活にかんゆーされたな。
なんだっけ。まあいいや。
別にバスケ以外はどうでもいい。
だってオレ、バスケだけ出来れば他はいらねーし。

「パン食べたくなってきちった」

まいう棒でもポテチでもチョコでもなく。
オレがパン食べたいって思ったのは。
多分あの子のせいなんだろうな。

彼女が。
パンの匂いの子ではなく、さんという名前だったと知ったのは。
それからしばらくしての事だった。


【あとがき】
あくまでむっくんサイドはマイペースです。
実はむっくんがヒロインちゃんの名前を憶えていたのには訳が…ってことで、ズバリ匂いです。
何で彼女からパンの匂いがするのかは追々。
本当だたの邂逅のおはなし。

[2013/10/21]