それはただの気紛れだった。
昼休み、ご飯の後に食べるお菓子を買いに購買に行って、教室に戻ってきたらオレの席に別のクラスの女の子が座ってて。
多分友達と話しに来たって事なんだろうとは思うけど、そこはオレの席で、オレはそこに座ってこのお菓子を食べようと思ってたのに。
ヒネリつぶしちゃえば早いけど、気分が乗らないから止めた。
オレは教室を出て、何処かお菓子が食べられそうなところを探すことにした。

別にお菓子が食べられれば何処でも良かった。
ただ昼休みという事もあって何処もうるさくて。

「あ!なあ紫原!」
「…なんだし」
「うわなんか不機嫌!」

廊下ですれ違ったのは同じクラスの…名前なんだっけ。
この間生物の実習の時に同じ班になったやつ。

「この後暇か?キャッチボールやるんだがお前も参加しないか?」
「えーめんどくさい」
「でもってノリ悪っ」

自分でも分かるくらい、多分オレ怖い顔してる。
だって手にはお菓子があるのに食べられないんだもん。
あ、別にどっかに座って食べなくたっていいんだ。
ここで開けて食べちゃえば。

「やっぱ無理。オレ忙しいし」
「忙しいってソレ食うこと?」
「うん」

まいう棒をいっこ取り出して口に咥える。
うん。やっぱお菓子がねーと落ち着かねーし。

「まあいいや。次誘うときはやってくれよなー。あ、お前の好きなバスケでもいいからさ」

じゃあな!なんて手を振って。
それを見送っていればオレを誘い損ねたからなのか友達と思われるヤツに背中を叩かれてた。
どうでもいいけど。

「別に好きでもなんでもねーし…」

バスケだろうがキャッチボールだろうが。
別にどうでもいい。

モゴモゴと口を動かしながら、結局オレは校舎から離れたところまで来ていた。
あんまりこっちの方来ないからよく分かんねーけど。
木の下にあったベンチに腰を下ろして次はポテチを開ける。
新しい味なんだよね、これ。チーズ明太子味。

「…図書館。へー」

何となく目の前にあった建物の名前を読み上げて納得する。
図書館とかタイクツそうなところ興味ねーし。
通りでこっちのほうに来たことがなかった訳だ。

「…ベタベタになっちった」

空っぽになった袋を丸めて手を見下ろす。
今のチーズ明太子でオレの手はギトギトだった。
ハンカチは、ポケットには入れてない。
近くに水道もない。
仕方なく重たい腰を持ち上げて、オレは図書館のトイレを借りることにした。

「………」

中は、凄く静かだった。
ほぼ無音に近いと言ってもいいくらいだ。
うるさいのよりは静かな方がいいか、とどうでもいいことを考えながら入り口脇にあったトイレを見つけて中で手を洗う。
終わったらさっさと出よう。
紙のタオルで簡単に手を拭いて、それを丸めてゴミ箱へ。
面白がってフリースローみたいにするやついるけど、あれって外した時面倒だし。
まあ、オレは外さねーけど。

トイレから出て、真っ直ぐ外に出るはずだった。
けど何となく見渡した図書館。
ガラスで覆われたそこは何だか少しだけ神秘的に見えて。

「(まあ、いっか)」

もうここに来ることはほとんどないんだろうし。
たまには学校見学と言うのも。
いつものオレなら多分考えもしないことだけど、何となく光が溢れている2階へ足を向けていた。

昼休みで外は天気がいい。
オレと同じで滅多な事ではここへ来る人間もいないのか、館内は閑散としていた。
まばらに人はいるものの、皆真面目に本を広げノートを広げ、勉強をしている。

「(ダルいし)」

努力して何が楽しいのだろう。
努力して何が得られるのだろう。
そんな事を思いながら歩いていると、奥の方にある陽が一際強く射し込んでいる窓辺のテーブルが見えた。
何だかあったかそう。そう言えば眠たくなってきたような気もする。

「寝よ」

オレの手にはまだお菓子が残ってたけど。
それよりもここで眠ったら気持ちよさそうだなんて思って。
椅子を引いて隣にお菓子の袋を乗せる。
椅子もテーブルもオレには少し窮屈で小さいけど、眠れないことはない。
オレは腕を枕に目を閉じた。

---

「やべ、よだれ」

机で突っ伏して眠っていると、不意に意識が覚醒するものだ。
それはオレも例外じゃなくて、ぼんやりとする頭を起こして腕を見ればよだれの跡。
今何時だろう。そう思いながら口元を拭って体を伸ばしていると。

「……」

すぐ側の本棚。
その陰で何やら女の子が背伸びをしてぷるぷるしている。
何やってんだろう。そう思いながらまじまじと見やれば、どうやら本を上の方の棚に戻そうとしているようだった。
しかし。

「(全然届いてねーし。って言うか、何で背伸びして戻そうとしてんだし…馬鹿だし)」

呆れるとはこの事なんだと思った。
彼女の身長は恐らくごくごく一般的な標準。
しかしここの書棚は自分でも手を伸ばさないと届かないような背の高い本棚だ。
それの上の方に、己の身一つだけで戻そうとするなんて。

そのままスルーして席を立ってしまおうか。
そう思ったのだが、彼女は諦めるどころか無理にでもそこへ押し込もうとまだ無駄な努力を続けていて。

「え」

気が付けば、オレはその本に手を宛がっていて。
押せばその本はまるで自分の居場所が分かるかのようにスッとそこへ収まった。
それが不思議だったのか、目の前の女の子は顔を上げて本を確認していて。
次の瞬間。

「わ!」

オレが真後ろに、それも近くに居たから驚いたんだと思う。
そこまで驚く必要はないと思うのだが、彼女は飛び退いて背中を本棚にぶつけていた。

「…ダイジョーブ?」
「あ、だいじょう、ぶ」

彼女が恐る恐るこちらを見上げる。
あ、目が丸くなった。

「有難う、紫原くん」

そう言って彼女が少し緊張していた面持ちを和らげる。
あれ、この子、どっかで見たことがある。
誰だっけ。

「起きたらなんかプルプルしながら危なっかしく本戻すの見えたからね〜」
「うん、ご尤もで」

彼女が少し照れながらはにかんでぺこりと頭を下げた。
その時にふわりと感じたある匂い。
ああ、そうだこの子。

「あの、」
ちんにあげるよ〜」

手に持っていた袋からまいう棒を一本取り出して彼女の頭に乗せる。
だってそこが丁度良かったから。

「え、なまえ…」
「んー?ちんでしょ?同じクラスの」

そうだ。彼女は確か同じクラスのさん。
オレは過去に彼女と話したことがある。
とは言え、談笑とか実習とか同じ班だったとかそういうのじゃない。
日常の挨拶程度の、いやもしかしたら多分それ以下の短い会話だったと思う。


【あとがき】
本編のサイドストーリーっていうかまあむっくん視点のお話。
ヒロインだけでは回収しきれない裏側をこっちで拾っていこうかなという目論見。
気になったところの補填だけなので、すべてのお話にむっくん視点がある訳ではないという事を記載しておきます。

でもって続きます。

[2013/10/21]