何かいま、柔らかいものが触れたような気がした。
そう言えば視界が暗い。あれ、私何してるんだっけ。
そうだ。今日はテツ君とデートで、部屋に誘われて。
本を読んでいたんだ。
それで、途中で集中力が切れて、睡魔が…。

「!」

やばい。私今寝てた!?
そんな焦りで意識が急に浮上して、慌てて目を開ける。
すると、私の目の前にテツ君の顔があって、その彼が物凄い驚いた表情をしていた。

どういうことだ。

私は急激にうるさくなってきた心音を聴きながら考えた。
私の視界にはテツ君の驚いた顔と、その後ろに壁と同じ白い天井が見えている。
足の方は温かい。そうだ、コタツに入ってたんだっけ。
そこまでは整理出来たのだが、どうして今こういう状態になっているかが分からない。
何か、何かを言わないと。ええと、何を言えばいいの。
ここはどこ、私は誰?違う。そんな言葉じゃなくて。今のこの状況を。

「びっくりしました。まさか本当に目を開けるなんて…」
「えっ??」

驚いていた彼の表情が和らぐ。
そこで私は今の状態を理解した。
私、いつの間に床に寝転がったのだろう。
そしてもしかしなくても、この体勢、テツ君に押し倒されていないだろうか。
落ち着いて横を確認してみる。
うん、テツ君の腕が両側にある。彼はそれで自分の体を支えている。
つまり寝転んでいる私の上に彼がいる、とそういう構図だ。
そこまで整理できた自分を褒めてあげたい。
問題はここからだ。何故、こうなっているのか。そもそもに彼の今の言葉はいったい。

「順を追って説明すると、さん、途中で眠ってしまったんですよ。本を読んでいる途中で」

うん、憶えている。
猛烈な睡魔が襲ってきて。
お茶を飲んで気分転換なんてことを考えて意識を失う前にお茶を一口飲んだことも。
結局駄目だったみたいだけど。

「コタツ台に突っ伏して眠ってしまったのに気が付いて、体勢が辛いんじゃないかと思って寝かせたんです。さっき」

ああ、だから私横になって寝てたんだ。
後ろに倒れた記憶はなかったし、ましてや折角のデートでそんなあからさまに寝る体勢に入ってたらその時の自分を呪いたくなる。
結果として寝落ちしたのだからあまり取り付く島もない状態なのだが。

「それで…」
「……?」

彼が口籠る。珍しい、なんて彼を見やれば、別の方向に視線を逃して彷徨わせていて。
多分狼狽えている、と言う表現が正しいと思うのだが。
若干頬も赤いかも、と食い入るようにその横顔を見ていたら。

「そ……そんなにじっと見ないでください」
「っ」

彼の手が私の目元を覆った。
視界を奪われる直前に見えたテツ君の顔。
恥ずかしがるような、そういう恥じらいに似た表情。
私の胸は思わず高鳴る。漫画で言うならあれだ。『キュン』だ。

「その…ごめんなさい。眠る貴女が…可愛くて」
「……テツ、」
「キス、してしまいました」
「ッッ!?」

彼の手の下で大袈裟に瞬きをする。
私の睫毛が彼の手のひらに触れて、多分くすぐったかったのかその手がそっと退けられた。
再び戻ってきた視界に映るテツ君は、やっぱり照れたような困ったような顔をしていて。
私の胸は詰まったように苦しくなった。
呼吸が重たくなって、顔に熱が集中してくるのが分かる。
やばい、私の手、今凄く汗ばんでる。

「貴女を横にして寝かせた時、急に童話の『眠り姫』を思い出してしまって」
「……」
「口付けしたら、目が覚めるんじゃないかって思ったら……気付いたら貴女に、キスを、してました」
「う、うん…」

私は今猛烈に逃げ出したかった。
足元のコタツが暑かったのもあるし、テツ君が物凄い殺し文句を言ってくるものだから恥ずかしいし。
顔を隠したくても動ける状態じゃないからどうにも出来ないし。
正直息をするのも忘れそうなくらい、胸がドキドキしてる。
熱いお風呂で長く浸かりすぎてのぼせたような、そんな状態に近いと思う。

さん」
「は、はい」

彷徨わせていた視線がようやく戻ってきたテツ君が、今度はしっかりと私をその瞳に捉えて名前を呼んだ。
不思議だ。彼が私の名を紡ぐと別のものに聞こえる。
心地よい低音。耳にとっても良く馴染む。
呼ばれたそれに返事を返すと、彼が片方の手を浮かせて私の頬にそっと触れる。
するり、と指先で肌を撫でると手のひらを宛がった。
目が反らせなくなる。
凄く真剣な表情。さっき本に向けていたものにとても良く似ている。
そのまま薄くて形の綺麗な唇に目が行く。
そう言えばここを見ていて私の心は乱されたんだっけ。

「もう一度、キス…してもいいですか」

気付けば彼との距離はもう目と鼻の先で。
顔に影が落ちてきたから、それに合わせて私の目蓋も落ちかけて。
いいですか、なんて訊いた癖に。彼は多分返ってくる言葉が分かっているかのようで。

「…うん」

そ、っと。
触れ合うためだけに押し付けられた唇は、柔らかく私のものとくっ付いて。
頬に触れていた彼の指先が徐々に落ちて耳に触れ、首筋に回って。




眠る姫君 口付けに沈む




(王子様のキスは、私をくらくらさせるキスでした)


【あとがき】
黒子くん初夢。
私の中で彼は草食系男子ではありません。
物腰が柔らかいだけで普通の男の子!です!
元ネタと言うか思いついたのは1巻ですかね?巻末にあった4コマ。
あそこ見て思いつきました。コタツに入りながら4コマまったく動きがない黒子。
変わってたのは手に持っていた本だけでしょうか(笑)
あれ見てこれ書きたいって思いました。

[2013/11/10]